2015年8月19日水曜日

つばくろに想う

今日の稽古の道すがら、雨に打たれる国道に一羽の燕の子が横たわっていました。
トラックに跳ねられたのでしょうか。まだ飛び始めの若々しい羽が、痙攣して雨けぶりの中に見え隠れしています。
早速引きかえし、路肩に車を止め、対向車に注意しながら保護した小さな命は、私の掌の中でぐったりと頭を垂れ、荒い息を繰り返しています。
...
家に戻り、身体に外傷のないのを確認すると、きっとショック性のものかも知れない、と思いタオルでくるんで水けを拭き安全なところに横たえました。
できることと云って何もないので、さしあたって背骨に沿って輸気をしたところ、手のひらには強烈な気感が返ってきました。
ひょっとしたら、意識を取り戻して、稽古から帰ってくるころには、部屋の中を飛び回っているかもしれないーそんな淡い期待をしながら、稽古会に急ぎました。
夕方、ひとコマ目が終わり、家人に電話をすると「頭から出血して、さっき息を引き取った」との由。
・・・ほんの刹那のご縁でしたが、私の手の中で確かに生きていた命の温み、鼓動、気のバイブレーションは、思ったよりも鮮烈で、あれが死を迎える直前の生き物の様子だというのがにわかに信じられませんでした。
そう言えば、最愛の祖母が息を引き取る直前も、深く大きな息を間断なく繰り返していたといいますし、私の前で息を引き取った人も皆そうだったように思います。
存外、死とは勢いのいるものなのかもしれません。
そして人も小鳥も、犬も豚も牛も、みんな同様にこの今を生きているということ言葉以上に教えてくれました。
私の柔の師、順心斎老師が、いまだ若かりし頃の話を聞いたことがあります。師は、ある事情から国外などで死地を乗り越えるような経験を幾度となくされて、上官を目の前で失ったような経験をお持ちの方なのですが、ある時、小鳥が自分の手の中で、安らかな顔で死んでいるのを見た時、急に死というものが身近で安らかなものだということを悟られてしまわれたそうです。
それ以来、絶妙の見切りを体得されたとのこと、今回の燕の死を通じて思い出したりしました。
私の場合は、そんな絶技は思いもよりませんが、命持つものの力つよさのようなものと、ぽかんとしたあっけなさ、そして目を閉じた燕の眠ったような美しい姿に心を揺さぶられております。
明日晴れたら、八ヶ岳の見えるところに塚を作ってあげたいと思います。
次の日おもったこと。
 
トラックに跳ねられた燕の雛を埋葬して、ふり仰げば青い空に、高く低く飛ぶ燕たち。
これから遠い旅路に向かう前に、最後の別れをしに来たのでしょうか。
燕を見ると思いだす、会ったことのない祖父のことー
...
祖父の所属した機関の秘匿名(コードネーム)は『燕』(つばくろ)でした。
皇国の捨て石になる為に、秘剣・日月流を磨きに磨き、同志たちと七洋に散りました。祖父の歩んだ道は秘され、その志は長らく明らかになりませんでした。
ある日、祖父の軍装鞄に残された絵日記から、暗号文が見つかり、その戦っていた相手を知りました。巨大な敵を向こうにに、仲間からも理解されないまま特務を全うした祖父。
もう一人の祖父は、立場として真逆の人生を送りました。
明治生まれでしたが、長男の特権をすべて放棄して世界革命運動に身を投じ、特高警察に捕まり過酷な拷問を受けました。
死ぬ間際に、手足のすべての爪の間に電極を差し込まれた跡を見せ乍ら、はじめてその半生を語ってくれたじいじい。
今で言うならば、極右と極左ですが、人類を憂う大きな愛に貫かれ、闘い続けた人生だったのだと思います。
騒乱を誰よりも厭いつつも、人々をそこから遠ざけるために自らその渦中に身を投じる・・・その意味においては、二人は同様の人生を送ったのだと思います。
一人の命、一人の行いに幾許の力があるのかはわかりません。
しかし、彼らの存在とその動向が、状況に新たなバランスを与えたのだということは間違いがないのだ、と今は考えています。
体術に於いて、ほんの少しの心身の変革が、中心の位置を変化させて、動きの方向性そのものを大きく変えてしまうことが多々あります。
意識的な探求を積み重ね、自立した軸を得るならば、その人の行為は体術的に見て『効く』ものとなります。
一人がその信ずるところに向かって、精魂込めて何かをやる、それだけで世界は新たなバランスへと向かうのだと思います。では、世界の未来は明るいのか・・・?それは神のみぞ知る領域のお話。残念ですが、人はそれを読む能力は与えられていないようです。
それでもよかったのは、このような視点を持つことができたお蔭で、相手がどのような主義を持とうが、その人の芯から出てきた言葉であるならば、それはそれで貴いのだと思えるようになったということでしょうか。
意気に感じ、楽しんで自分の個性を形作っていければ、それで最高なのではないでしょうか。
 

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